岩井俊二監督の待望の新作『キリエのうた』は、公開前から大きな話題を呼び、独特の映像美と音楽、そして主演のアイナ・ジ・エンドさん(元BiSH)の圧倒的な歌声が融合した音楽映画の傑作として注目を集めています。本作は、歌うことでしか「声」を出せない路上ミュージシャンのキリエを軸に、降りかかる苦難に翻弄される男女4人の13年にわたる壮大な愛の物語を描いています。
岩井俊二監督と音楽プロデューサーの小林武史さんという黄金タッグが、アイナ・ジ・エンドさんという稀代の才能を得て生み出したこの作品は、単なる映画の枠を超え、観る者の心に深い共感を呼び起こす「魂の救済の物語」です。
本作は、東日本大震災という現実の悲劇を背景に持ちながら、登場人物たちが過去や痛みを抱えつつも、歌や人との繋がりによって未来を切り開こうとする姿を描き出しています。松村北斗さん、黒木華さん、広瀬すずさんといった豪華キャスト陣が複雑な人間模様を繊細に演じ、その演技は高く評価されています。
この記事では、映画『キリエのうた』の基本情報から、アイナ・ジ・エンドさんと岩井俊二監督の制作秘話、そして作品が持つ深いテーマや感動のポイントまでを、徹底的に深掘りして解説していきます。
- 映画『キリエのうた』の作品概要、豪華キャスト、および物語のあらすじの基本情報。
- 主演のアイナ・ジ・エンドさんや岩井俊二監督が語る、作品の制作意図や撮影現場での知られざるエピソード。
- 映画の批評や評価、そして鑑賞後にさらなる感動を得るための深く読み解くポイント。
映画『キリエのうた』作品概要
『キリエのうた』は、岩井俊二監督が自身のゆかりの地である石巻、大阪、帯広、東京を舞台に、出会いと別れを繰り返す4人の壮大な旅路を描いた意欲作です。
複雑に交錯する時系列の中で、歌だけが持つ純粋な力が、登場人物たちの人生をつなぎます。
まずは、本作を理解するための基本的な情報と、主要な登場人物、そして物語の導入部を確認しましょう。
映画『キリエのうた』の基本情報
本作の基本情報は以下の通りです。
- 監 督:岩井俊二
- 原 作:岩井俊二
- 脚 本:岩井俊二
- 編 集:岩井俊二
- 音 楽:小林武史
- 出演者:
- アイナ・ジ・エンド、松村北斗、黒木華、広瀬すず ほか
- 主題歌:
- Kyrie「キリエ・憐れみの讃歌」(avex trax)
- 制作会社:ロックウェルアイズ
- 製 作:
- Kyrie Film Band(東映、KDDI、ロックウェルアイズ、ジェイ・ストーム、関西テレビ放送、テレビ新広島、北海道テレビ放送、宮城テレビ放送、FM802、ニッポン放送、OORONG-SHA、CHOCORATEなど)
- 配 給:東映
- 公開日:2023年10月13日
- 上 映:178分
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主な登場人物
本作の中心となる、運命に翻弄される主な登場人物と、その役柄をリストアップします。
- キリエ / 小塚路花(こづか るか):
- 演 – アイナ・ジ・エンド
- 住所不定の路上ミュージシャン。
- 東日本大震災で母と姉を亡くして以来、歌う時以外はほとんど声が出せない。
- アーティスト名「Kyrie(キリエ)」は亡き姉の名前から。
- 潮見夏彦(しおみ なつひこ):
- 演 – 松村北斗(SixTONES)
- 横井の牧場で働く青年。
- 高校時代の彼女で婚約者だった路花の姉・希さんを震災で行方不明で失い、今も探し続けている。
- 寺石風美(てらいし ふみ):
- 演 – 黒木華
- 大阪・藤井寺市の小学校教師。
- 震災後に古墳公園で幼少期の路花(イワン)を発見し保護したことが、物語の重要な起点となる。
- 一条逸子(いちじょう いつこ)/ イッコ / 広澤真緒里(ひろさわ まおり):
- 演 – 広瀬すずさん。
- キリエのマネージャーを買って出る謎の女性。
- 路花の高校時代の先輩で友人。
- 過去を捨てて「一条逸子(イッコ)」と名乗っている。
あらすじ
本作は、時系列が複雑に交錯する構成ですが、物語の核となる「起」「承」「転」を追って解説します。
「結」は鑑賞の楽しみのために省略します。
- 起:歌声と出会い、そして新たな一歩へ(新宿、帯広)
- シンガーソングライターのキリエ(アイナ・ジ・エンドさん)は、歌うことでのみ「声」を出せる路上ミュージシャンとして、新宿駅南口の路上で弾き語りをしています。その前にイッコ(広瀬すずさん)と名乗る女性が立ち止まり、歌をリクエスト。キリエは、彼女が化粧を落とした顔を見て、高校時代の先輩・広澤真緒里さんだと確信します。イッコは「広澤真緒里という名前は捨てた」と語り、キリエのマネージャーを申し出て、マイクや衣装を揃え、路上ライブの規模を拡大していきます。
- 承:過去の悲劇と繋がりの始まり(石巻、大阪)
- キリエ(本名・小塚路花)は宮城県石巻市出身で、東日本大震災で母と姉(希さん)を亡くし、声を失っていました。姉の婚約者だった潮見夏彦さん(松村北斗さん)は、震災で希さんが行方不明になって以来、彼女を探し続けています。震災から2ヶ月後、大阪で小学校教師の寺石風美さん(黒木華さん)が古墳公園の木の上で生活していた幼少期の路花(イワン)を見つけて保護。風美さんはSNSで石巻にいる夏彦さんが路花の関係者らしいと知り、彼に連絡を取ります。
- 転:交錯する運命と苦難(大阪、東京)
- 夏彦さんと風美さんは路花を児童相談所に連れて行きますが、血縁関係がないという理由で、路花は一時保護所へ送られてしまい、二人はその後の処遇を知らされません。一方、イッコ(一条逸子)は、夜のフィクサーに「天女」と名付けられ、巧みにマネタイズをしていました。イッコに結婚を望んでいたIT会社社長(波田目新平/ナミダメ)は、警察から彼女が結婚詐欺師だと聞かされ、怒りを抱えてキリエを襲おうとします。この複雑な運命の中、キリエの歌声は、別れと苦難を繰り返す人々の人生を繋いでいくのです。
アイナ・ジ・エンド × 岩井俊二:
運命的な出会いから生まれたキリエのうた
本作『キリエのうた』は、岩井俊二監督の創作意欲と、アイナ・ジ・エンドさんの持つ独自の才能が運命的に交差したことで生まれました。
監督は、彼女の表現力に新たな物語の可能性を見出し、音楽映画という自身のライフワークを再び立ち上げました。
奇跡のコラボレーション:企画始動の舞台裏
岩井俊二監督は、中国映画『チィファの手紙』の劇中小説『未咲』をベースにした短編映画の構想を持っていました。そ
の企画開発の過程でアイナ・ジ・エンドさんに出会い、彼女の存在が『キリエのうた』の企画へと直接繋がっていったとされています。
監督がアイナ・ジ・エンドさんを主演に抜擢した決め手は、彼女がBiSHで振り付けを全て担当していたことから感じた、その動きの「解像度の高さ」と表現に対する感度の高さでした。
岩井監督は、彼女が「身体の動きを自分で自覚できている」と感じ、ダンス、言葉、メロディの全てが繋がって一つの世界になっている才能を持っていると見抜き、「絶対に心配はいらない」と確信したと述べています。
監督は彼女を「ちょっと大変な才能に出会ってしまったな」と評し、そのキャリアを尊重する姿勢を見せています。
音楽面では、岩井俊二監督と小林武史さんという音楽映画の黄金タッグが復活しました。
小林武史さんは、岩井監督との仕事では、通常の映画音楽制作とは異なり、「映画を作りながら、並走する形で音楽も作っていく」スタイルであり、自然発生的な「セッションしているみたいな感覚」からクリエイティブが生まれると語っています。
特に主題歌「キリエ・憐れみの讃歌」の制作では、小林武史さんが一発で楽曲を完成させ、岩井俊二監督の熱量がアイナ・ジ・エンドさんの才能によって急上昇していくのを実感したといいます。
主演・監督が語る!撮影現場の知られざるエピソード
タイトなスケジュールで進行した撮影現場では、クリエイターとキャストの情熱的な取り組みが垣間見えました。
アイナ・ジ・エンドさんのエピソード
映画初主演となったアイナ・ジ・エンドさんは、撮影中、過密なスケジュールの中で「余裕がなくなりそうな時もあった」と振り返っています。
しかし、そんな時でも、目を閉じて深呼吸し、目を開けて岩井俊二監督が目の前にいるのを見ると、「これは岩井さんの現場なんだ、夢じゃないんだ」と現実を再確認でき、「嬉しいが勝つ」ため、必死さの中にも楽しさを見出せたといいます。
彼女が初めて観た岩井俊二監督作品は『PiCNiC』(1996年)で、そこで受けた衝撃が、後の彼女の創作観にも影響を与えているようです。
また、彼女は映画撮影中の事故で頭部を負傷し、内側10針、外側20針を縫合するという経験をしました。
この「死の淵」を経験したことが、彼女の人生観に大きな変化をもたらし、「ぼんやりしている暇はない」という覚悟を持って活動に臨むようになったと語っています。
岩井俊二監督のエピソード
岩井俊二監督は、映像制作において「リアリティ」を極限まで重視しており、特に音響の演出は自ら担当しています。
監督は、音響効果は「100点満点で0点」を目指すべきであり、登場人物が道を歩く際の葉っぱを踏む音一つまで、映像と音がぴったりと合う瞬間に「カタルシス」を感じると述べています。
本作で監督が特にこだわったのは、音楽シーンにおける「当て振り」(後から音源を被せること)を避けることでした。
監督は、演奏シーンで音が急に綺麗になり、前後のシーンと音像が異なると違和感を覚えることを指摘し、今回は「音は基本的に全部現場のトラックを使う」と決め、役者自身が演奏・歌唱したリアルな音をそのまま使用しました。
さらに、松村北斗さん演じる夏彦とのシリアスなシーンの撮影では、「神が宿るようなシーンにしたかった」という監督の強い思いから、同じシーンを太陽が昇っている昼間から夕暮れになるまで、何度も繰り返し撮影しました。
松村北斗さんは体力的に疲弊したものの、岩井監督が「さっきよりも本当にいいんだよ!!」と、光の具合や空の雲の具合がシーンにマッチしていると熱弁したため、松村さんは「ああ、自分の目に映っていないところでそんなことがあるんだ。空って大事なんだな」という気づきを得て、納得してテイクを重ねたといいます。
「歌」に全てを捧げたアイナ・ジ・エンド – 役作りと魂の叫び
『キリエのうた』の核となるのは、間違いなくアイナ・ジ・エンドさんが演じるキリエの「歌」です。
彼女は、単に歌手として歌うだけでなく、役柄の背景や感情を深く掘り下げ、魂を込めて楽曲を制作・表現しました。
キリエとして歌うことの意味 – 歌詞・メロディへの想い
アイナ・ジ・エンドさんは、キリエという役柄の特性を深く反映させて楽曲制作に臨みました。
キリエは歌うことでしか声を出せない(日常会話で声が出せない)という設定のため、彼女の歌は複雑な表現ではなく、より直接的であるべきだと考えました。
アイナ・ジ・エンドさんは、自身のソロ活動で「駆け抜けよう」といった比喩表現を使うのに対し、キリエの楽曲では「楽しい」「悲しい」といった「シンプルな言葉」で感情を表現することを心がけました。
主題歌「キリエ・憐れみの讃歌」の歌詞も、強烈なインパクトよりも、どこにでもある平易な言葉で、今日から始まる気の遠くなるような長い日々がシンプルに綴られています。
メロディにおいても、キリエの「私には歌しかないんだ」という切実な気持ちを乗せるために、サビではほぼシャウトで歌うように意識されています。
この表現は、アイナ・ジ・エンドさん自身が抱える「歌がなくなったら誰が私を愛してくれるんだろう」という孤独や渇望と共鳴しており、役作りと自身の感情が深く結びついた結果、魂を揺さぶる歌声が生まれました。
劇中歌のうち、アイナ・ジ・エンドさん自身が6曲を書き下ろしました。
俳優としての葛藤と成長:ロングインタビューから読み解く
映画初出演・初主演という大役に挑んだアイナ・ジ・エンドさんは、出演が決まった当初から、岩井俊二監督の「岩井ワールド」に自分が入ることに強いプレッシャーを感じていたと明かしています。
「いや、岩井作品に松村北斗いらないだろう」「松村北斗が入れるの?」と、松村北斗さんの名前を挙げて、自分自身に対して勝手にプレッシャーを与えていたといいます。
彼女は、自分が愛する世界観であるからこそ、「もっと夏彦を素敵にやられる方は、絶対たくさんいるよな」と感じたり、「そこの人間じゃない感じに思ってしまう」瞬間があったと、当時の素直な葛藤を語っています。
しかし、完成した作品を観た後、その感想は大きく変わりました。
岩井俊二監督の「強烈な1枚のフィルターがかかっている」ことで、自分の想像していた自分には映っておらず、「そんなところを切り取られてそんなふうに撮られていたんだ」と感じたといいます。
彼女は「誰でもよかったのかもしれない」と理解し(誤解のないように伝わってほしい、と前置きしつつ)、自分の実力ではない部分で、監督がその才能を引き出してくれたことに「本当に安心した」と語り、俳優としての新たな可能性を開花させました。
この演技が評価され、アイナ・ジ・エンドさんは第47回日本アカデミー賞 新人俳優賞、第48回報知映画賞 新人賞、第97回キネマ旬報ベスト・テン 新人女優賞、ELLE CINEMA AWARDS2023 FENDI賞など、多数の新人賞を受賞しています。
コラム:アイナ・ジ・エンドさん、紅白歌合戦2025 初出場
映画『キリエのうた』で、複数脳映画賞も受賞し、一躍、注目されるようになったアイナ・ジ・エンドさん。しかし、本業は歌手。
彼女は、2025年にリリースした『革命道中 – On The Way』が大ヒット。これは人気アニメ『ダンダダン』第2期のオープニングテーマ。
この大ヒットで、アイナ・ジ・エンドさんは、紅白歌合戦に初出場することとなりました。
本記事で紹介している映画『キリエのうた』だけではなく、大晦日の紅白歌合戦で歌うアイナ・ジ・エンドにも注目してくださいね。
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岩井俊二監督の創作術 – 独特の世界観はこうして作られる
岩井俊二監督の作品は、その詩的な映像と、時代や社会を鋭く捉える視点、そして音楽との完璧な調和によって「岩井美学」を確立しています。
『キリエのうた』においても、その独特な創作術が随所に光っています。
過去作との繋がり:監督が繰り返し描くモチーフ
『キリエのうた』は、岩井俊二監督の代表的な音楽映画である『スワロウテイル』(1996年)や『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)と並ぶ作品として位置づけられています。
これらの作品に共通するのは、歌い手が物語の原動力となり、若者の生と死、そして希望を描く点です。
監督は、自身の過去作品で描いてきた普遍的なテーマや「岩井ワールドの記号」を本作にも意図的に織り込んでいます。
- 歌姫との連鎖:
- 主人公キリエは、『スワロウテイル』のグリコ(Charaさん)や、『リリイ・シュシュのすべて』のカリスマ・アーティストLily Chou-Chou(Salyuさん)と重なる、唯一無二の歌声を持つ存在として描かれています。
- 繰り返し登場するキャストと設定:
- 黒木華さんが『リップヴァンウィンクルの花嫁』に続いて小学校教師役で出演し、広瀬すずさんは『ラストレター』での女子高生役から一転、過去を捨てた謎めいた女性(イッコ)を演じて、これまでのイメージを覆しています。
- 普遍的なテーマ:
- 二人の少女の物語、地方の景色、学校や制服、時空を超えた愛と友情といった、監督が繰り返し描くモチーフが散りばめられており、これらが岩井監督の「パラレルワールド」を構成しているようにも見えます。
また、岩井監督は、最近の創作術として「物語の結末をつくらないでいる」ことで、登場人物が自発的に動き出し、予期せぬ物語へと発展していくことを試しており、これが『ラストレター』から『キリエのうた』へと繋がったと語っています。
映画を彩る音楽:小林武史氏とのタッグ
岩井俊二監督の音楽映画において、小林武史さんの存在は欠かせません。『キリエのうた』でも、小林武史さんが音楽と主題歌を担当し、映画の情景と感情を深く彩っています。
小林武史さんは、岩井監督との協働を、映画と音楽制作が「並走する形」で進み、まるで「セッションしているみたいな感覚」からクリエイティブが生まれる、稀有な映画づくりだと述べています。
主題歌「キリエ・憐れみの讃歌」は、小林武史さんが作詞作曲を担当し、その完成度の高さから岩井俊二監督を驚かせたエピソードもあります。
小林武史さんは、アイナ・ジ・エンドさんの才能に強く惹かれており、本作と関連アルバムが、過去のYEN TOWN BANDやLily Chou-Chouの作品のように、時代や国境を超えていく「しるし」となることを願っています。
小林武史さんは、この音楽制作を通じて、お互い年齢を重ねたにもかかわらず、岩井俊二さんと「こんなふうにいいことがあるんだね」と語り合うほど、本作が幸福な作品になったと感じています。
【深く読み解く】作品の評価と位置付け
『キリエのうた』は、批評的な成功を収めるだけでなく、観客の心に深く刺さるテーマ性によって、現代日本映画の中でも重要な位置を占めています。
映画キリエのうたが持つ普遍的な価値
本作のタイトルにある「キリエ」はギリシャ語で「主よ」、「キリエのうた」とはミサ曲の「キリエ・エレイソン(主よ、憐れみたまえ)」を指します。
このことから、この映画は、震災や貧困によってすべてを失った人々、そして困難な世を生きる人々へ贈る「讃歌」であり、「魂の救済の物語」であると解釈されています。
- 魂の救済者としてのキリエ
- 劇中、キリエ(路花)は、キリスト教的な要素を持つ家系であることや、修道院の登場からも、救世主イエス・キリスト的な役割を担っていると考察されています。彼女の重要な役割は、登場人物たちに「赦しを与える」ことでした。例えば、松村北斗さん演じる夏彦さんが抱える、震災で婚約者を守れなかった「罪の意識」や「限界」を肯定し、赦しを与えます。また、広瀬すずさん演じる逸子さん(イッコ)が、汚い金で得たお金をキリエに渡す行為は、贖罪としての「喜捨」であり、キリエに過去の自分を重ねて赦しを求めていた可能性が示唆されています。
- 岩井監督の社会的メッセージ
- 岩井俊二監督の映画は、「大量消費を目的とせず、必要とする人のために作られる」と評され、支持層は広く、国内外に口伝えで広がっています。本作は、複雑な時系列と広範な舞台(石巻、大阪、帯広、東京)を扱うことで、観客に世界の「奥行き」を感じさせ、東日本大震災によって「いなくなった人たちも一緒に考えていく」という、監督の復興への姿勢がテーマに深く組み込まれています。
本作は、岩井俊二監督が映画部門で第74回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞し、また映画自体も第47回日本アカデミー賞話題賞(作品部門)を受賞するなど、高い評価を得ました。
ファンが知っておきたい「鑑賞後に深まる感動」のポイント
『キリエのうた』の感動をさらに深めるために、鑑賞後に知っておきたいポイントをご紹介します。
登場人物たちの「名前」に込められた意味
本作の主要な登場人物たちは、過去の名前(路花、真緒里)を捨て、新しい名前(キリエ、イッコ)を名乗っています。
これは、単なる改名ではなく、過去の苦難や痛みを断ち切り、新たな人生を「よろこびをもって」歩み始めようとする希望の象徴です。
震災と「ともに在り続ける」テーマ
宮城県仙台市出身の岩井俊二監督は、震災復興応援ソング『花は咲く』の作詞も手がけています。
監督は、震災で「いなくなった人たちも一緒に考えていくこと」が本当の復興に繋がると考えており、キリエの歌声は、喪失感や有限性に対する「抵抗」として機能し、いなくなった人々が「ともに在り続ける」というメッセージを伝えています。
路上ミュージシャン・キリエのルーツを辿る
キリエが歌うことになったきっかけの一つは、大阪の天王寺公園で出会ったストリートミュージシャン(御手洗礼さん/七尾旅人さん)。
幼少期の路花(キリエ)は彼と一緒に「音痴の聖歌」を歌い、警察に捕まるという出来事を経験しますが、これが彼女が自分自身の声(歌声)を獲得していくきっかけを与えたとされています。
壮大な物語の舞台、宮城のロケ地をチェック
本作は、岩井俊二監督のゆかりの地である宮城県でもロケが行われました。
夏彦さんやキリエの背景を知る上で重要な場所として、石巻市の羽黒山鳥屋神社や、東松島市のJR東日本 矢本駅(仙石線)などが登場します。これらの場所を知っておくと、物語のリアリティと深みが一層増すでしょう。
映画『キリエのうた』に関するFAQ
以下に、映画『キリエのうた』について、これまでの本文内容と重複しない追加情報を中心に、よくある質問をまとめました。
- Q1. 映画『キリエのうた』は現在どこで視聴できますか?
- A1. 映画『キリエのうた』は現在、U-NEXTで独占配信されています。ポイント作品(レンタル作品)ですが、初回限定の31日間無料トライアル登録時に付与される600ポイントを利用すれば、決済金額0円で視聴可能です。
- Q2. 映画の劇中歌にはどんなものがありますか?
- A2. 主題歌「キリエ・憐れみの讃歌」のほか、劇中歌として「燃え尽きる月」「名前のない街」「ずるいよな」「ひとりが好き」「前髪上げたくない」「虹色クジラ」などが存在し、これらはアイナ・ジ・エンドさんが自身で書き下ろした楽曲も含まれます。
- Q3. 「Kyrie」名義のアルバムはリリースされていますか?
- A3. Kyrie名義の1stアルバム『DEBUT』が2023年10月18日に発売されています。このアルバムの楽曲プロデュースを担当した小林武史さんは、第47回日本アカデミー賞の音楽賞に名を連ねています。
- Q4. 映画の公開前に原作小説は発売されましたか?
- A4. 岩井俊二監督自身が書き下ろした原作小説『キリエのうた』(文春文庫)が、映画公開(2023年10月13日)に先立ち、2023年7月5日に発売されています。
- Q5. 映画『キリエのうた』は海外でも公開されましたか?
- A5. 2023年10月には第28回釜山国際映画祭に招待され、上映されました。また、2023年11月1日には韓国でも公開されています。
- Q6. 映画の公開年に、監督が受賞した賞はありますか?
- A6. 岩井俊二監督は、2024年2月に、本作『キリエのうた』によって令和5年度(第74回)芸術選奨の映画部門で文部科学大臣賞を受賞しました。
- Q7. 映画が公開された後に、ドラマ版も制作されたというのは本当ですか?
- A7. 岩井俊二監督自らが、映画の脚本および初期編集版を基に再編集したドラマ版『路上のルカ』(全10話、5時間半超え)が、2024年7月28日に日本映画専門チャンネルで放送されました。映画本編では未公開・未収録の映像も使用されています。
- Q8. 松村北斗さん演じる潮見夏彦と、キリエ(路花)の姉・希さんとの関係性は?
- A8. 夏彦さんは仙台の高校時代、路花の姉・希さんと交際し、希さんが夏彦さんとの子を妊娠したことで結婚の約束をしていました。路花とは血縁関係はありませんが、義妹になるはずだった路花を自身の妹のように大切に思っていました。
- Q9. 劇中でキリエのバンドメンバーを演じたのは誰ですか?
- A9. キリエのバンドメンバーには、ギタリストの風琴さんを村上虹郎さん、キーボード奏者の山茶花さんを粗品さん(霜降り明星)が演じています。
- Q10. 劇中に登場する松坂珈琲さんとはどのような人物ですか?
- A10. 松坂珈琲さん(笠原秀幸さん)は、ストリートミュージシャンで、イッコがキリエの販売用グッズ作成を依頼した相手です。その後もキリエバンドのメンバーを集めるなど、キリエを応援する存在となります。
- Q11. 本作でアイナ・ジ・エンドさんが受賞した賞のうち、映画以外の活動で受賞したものもありますか?
- Q11. 2025年度には「革命道中 – On The Way」で第67回 輝く!日本レコード大賞「優秀作品賞」を受賞し、GQ MEN OF THE YEAR 2025ではブレイクスルー・アーティスト賞を受賞しています。
まとめ
映画『キリエのうた』は、岩井俊二監督の卓越した映像美学と、小林武史さんの心に響く音楽、そして主演のアイナ・ジ・エンドさんの持つ孤高の才能が奇跡的に融合した、まさに現代の音楽映画の傑作です。
東日本大震災の傷跡を抱え、歌うことでのみ「声」を出せるキリエ(アイナ・ジ・エンドさん)の13年にわたる壮大な物語は、松村北斗さん、黒木華さん、広瀬すずさんら実力派キャストが織りなす複雑で切ない人間模様を通じて描かれます。
岩井俊二監督は、過去作のモチーフを散りばめながら、この困難な時代を生きる人々に「憐れみの讃歌」を捧げ、またアイナ・ジ・エンドさんの「身体の動きの解像度の高さ」という才能を最大限に引き出しました。
監督の現場では、音楽シーンにおける「当て振りではない」リアリティの徹底追求や、「神が宿るようなシーン」を目指す粘り強い演出によって、魂を揺さぶる映像が生まれました。
本作は、アイナ・ジ・エンドさんが第47回日本アカデミー賞 新人俳優賞をはじめとする数々の賞を受賞するきっかけとなり、彼女がキリエという役柄を通して表現した「歌しかない」という切実な想いや、平易な言葉に託した普遍的なメッセージは、多くの観客の心に深く共鳴しています。
『キリエのうた』は、単なるフィクションではなく、喪失や苦難を経験しながらも「いまここを歩きつづけて」いる全ての人々に対する、深い赦しと希望の物語です。鑑賞後には、岩井俊二監督が込めた過去作との繋がりや、登場人物たちの名前の裏にあるメッセージを読み解くことで、さらなる感動が得られるでしょう。
この記事で紹介した情報を参考に、ぜひ『キリエのうた』の世界を深く味わってください。
- 映画『キリエのうた』は、岩井俊二監督がアイナ・ジ・エンドさん(キリエ)の才能に出会い、制作された13年にわたる壮大な音楽映画である。
- アイナ・ジ・エンドさんは、初主演ながら日本アカデミー賞新人俳優賞など多数受賞し、キリエの「歌しかない」という心情をシンプルな言葉とシャウトで表現した。
- 岩井俊二監督と小林武史さんのタッグは、徹底的なリアリティ追求と過去作とのモチーフの連鎖により、時代も国も超える普遍的な「魂の救済の物語」を生み出した。
メタディスクリプション:
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