以下、本記事では俳優敬称を省略して記述します。
ハリウッドを代表する女優であり、監督、人道活動家としても世界的な影響力を持つアンジェリーナ・ジョリー。
彼女のキャリアは、反抗的な若者像から、屈強なアクションヒロイン、そしてオスカー受賞に輝く実力派女優、さらにはディズニーヴィランまで、驚くべき幅広さを持っています。
本記事では、彼女の多彩なフィルモグラフィーの中から、批評家評価、観客の支持、そしてキャリアにおける重要度を基に厳選した「お薦め14選」(ベスト11選+監督作品3選)を、ランキング形式で徹底紹介します。
あなたがまだ出会っていないアンジェリーナ・ジョリーの傑作が、ここにあるかもしれません。
アンジェリーナ・ジョリーの紹介と14作品選考基準など
アンジェリーナ・ジョリーの紹介
1975年6月4日、アメリカ・ロサンゼルス生まれ。父親は名優ジョン・ヴォイト、母親は女優のマーシェリン・バートランドという芸能一家に育つ。幼少期から演技に触れ、リー・ストラスバーグ演劇学校などで学びました。
1990年代初頭からキャリアをスタートさせ、当初は低予算映画やミュージックビデオへの出演が中心だったが、1998年のテレビ映画『ジーア/悲劇のスーパーモデル』での熱演が批評家から絶賛され、ゴールデングローブ賞を受賞。
翌1999年、『17歳のカルテ』で反抗的な精神科患者を演じ、アカデミー助演女優賞を受賞。一気にトップスターの仲間入りを果たしました。
2000年代に入ると、『トゥームレイダー』シリーズのララ・クロフト役でアクションスターとしての地位を確立。続く『Mr. & Mrs. スミス』は世界的な大ヒットとなり、共演したブラッド・ピットとの関係も大きな注目を集めました。
一方で、『マイティ・ハート/愛と絆』や『チェンジリング』のようなシリアスなドラマ作品にも出演し、演技派としての評価を不動ものにしました。
また、『カンフー・パンダ』シリーズでは声優としても才能を発揮。近年では『マレフィセント』シリーズで新たなハマり役を得ており、興行面でも大きな成功を収めています。
女優業と並行し、2011年には『最愛の大地』では監督デビュー。以降も監督・プロデューサーとして意欲的に作品を発表しています。
私生活では、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の特使を務めるなど、長年にわたり人道支援活動に尽力していることでも知られています。
養子・実子含め6人の子供の母親。ブラッド・ピットとの結婚・離婚は長くなりますので、割愛。
「14選」の選定基準ほか
「アンジェリーナ・ジョリー出演のお薦めベスト11」選出にあたっては、IMDb、Rotten Tomatoes、Filmarks等のデータを総合的に分析し、選定しました。
また、監督作品については、初監督作品から順番に3作を選びました。
なお、次章以降の作品紹介のなかの「配信先」については、Amazon Prime Video、U-NEXT、Netflixに限り配信状況を確認しています。配信確認は、本記事公開日現在です。配信状況は随時変更がありえることをご了承ください。
アンジェリーナ・ジョリー出演、お薦めベスト11
以下、アンジェリーナ・ジョリー出演作品のお薦めベスト11です。
ベスト11 -『ツーリスト』(2010年 アメリカ)

作品概要
- タイトル: ツーリスト
- 英語タイトル: The Tourist
- 脚 本:
- フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク、クリストファー・マッカリー、ジュリアン・フェロウズ
- オリジナル脚本
- フランス映画『アントニー・ジマー』のリメイク
- フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク、クリストファー・マッカリー、ジュリアン・フェロウズ
- 監 督: フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
- 主 演: アンジェリーナ・ジョリー、ジョニー・デップ
- 共 演: ポール・ベタニー、ティモシー・ダルトン ほか
- 公 開: 2010年12月10日(米)、2011年3月5日(日)
- 興行収入: 約2億7830万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video、U-NEXT
主な登場人物
- エリーズ・クリフトン=ウォード (Elise Clifton-Ward):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: 謎に包まれた美しい女性。イギリス警察から監視されており、姿をくらました恋人アレグザンダー・ピアースと連絡を取ろうとする。
- フランク・トゥーペロ (Frank Tupelo):
- 俳優名: ジョニー・デップ
- 役 柄: 傷心を癒やすために一人でヴェネツィアへ旅行に来た、アメリカ人の平凡な数学教師。エリーズと列車で出会い、彼女に一目惚れする。
- アチソン警部 (Inspector Acheson):
- 俳優名: ポール・ベタニー
- 役 柄: エリーズを執拗に追うイギリス警察の警部。彼女の恋人であるピアースを逮捕することに執念を燃やしている。
あらすじ
- イギリス警察は、巨額の脱税容疑で大物犯罪者アレグザンダー・ピアースを追っていた。ピアースの行方を知る唯一の手がかりは、彼の恋人であるエリーズ・クリフトン=ウォード(アンジェリーナ・ジョリー)だけ。警察はパリでエリーズの監視を続けていた。ある日、エリーズのもとにピアースから「ヴェネツィア行きの列車に乗り、私と似た背格好の男を見つけて、警察にその男を私だと思い込ませろ」という指示の手紙が届く。
- エリーズは指示通りヴェネツィア行きの列車に乗り込み、そこでアメリカ人観光客のフランク・トゥーペロ(ジョニー・デップ)に意図的に接近する。フランクは、妻を亡くした傷心旅行中の平凡な数学教師だった。ミステリアスなエリーズの魅力に、フランクは瞬く間に惹かれていく。
- ヴェネツィアに到着した二人は、最高級ホテル「ダニエリ」のスイートルームに宿泊する。フランクは夢のような時間を過ごすが、エリーズと行動を共にしたことで、彼は警察と、ピアースに恨みを持つマフィアの両方から「ピアース本人」だと誤解され、命を狙われることになる。
見どころ3選
- 見どころ1:ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーの豪華共演
- 本作最大の魅力は、アンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップという二大スターの共演だ。アンジェリーナ・ジョリーは、グレース・ケリーを彷彿とさせるクラシカルでエレガントな衣装に身を包み、ミステリアスな美女エリーズを完璧に演じている。一方のジョニー・デップは、人懐っこく少しドジな数学教師フランクを演じ、チャーミングな魅力を見せる。二人が織りなす、危険でロマンティックな駆け引きから目が離せない。
- 見どころ2:水の都ヴェネツィアの圧倒的な映像美
- 物語の主要な舞台となるヴェネツィアの風景が、息をのむほど美しく切り取られている。歴史的なホテル「ダニエリ」、リアルト橋、サン・マルコ広場といった名所だけでなく、運河を疾走するボートチェイスなど、ヴェネツィアの地理を活かしたアクションシーンも見どころだ。豪華絢爛な舞踏会のシーンも含め、まるで行く先々が絵葉書のような、贅沢な旅行気分を味わわせてくれる。
- 見どころ3:往年の名作を思わせるクラシカルなサスペンス
- 本作は、ヒッチコック監督の『北北西に進路を取れ』のような、「巻き込まれ型」サスペンスの王道を行く作品だ。平凡な主人公が、謎の美女と出会ったことで非日常的な事件に巻き込まれていく展開は、クラシカルでロマンティック。誰が敵で誰が味方なのか、エリーズの本当の目的は何なのか。二転三転するストーリーと、最後にあっと驚く仕掛けが用意されている。
ベスト10 -『トゥームレイダー』(2001年 アメリカ)

作品概要
- タイトル: トゥームレイダー
- 英語タイトル: Lara Croft: Tomb Raider
- 原 作: ゲーム『トゥームレイダー』シリーズ
- 脚 本: パトリック・マセット、ジョン・ジンマン
- 監 督: サイモン・ウェスト
- 主 演: アンジェリーナ・ジョリー、
- 共 演: ジョン・ヴォイト、イアン・グレン、ダニエル・クレイグ ほか
- 公 開: 2001年6月15日(米)、2001年10月6日(日)
- 興行収入: 約2億7470万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video(レンタル)、U-NEXT
主な登場人物
- ララ・クロフト (Lara Croft):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: 英国貴族の令嬢でありながら、世界中の遺跡を冒険するトレジャーハンター(考古学者)。類稀な美貌と知性、卓越した戦闘能力を併せ持つ。
- リチャード・クロフト卿 (Lord Richard Croft):
- 俳優名: ジョン・ヴォイト(アンジーの実父)
- 役 柄: ララの父親。著名な考古学者だったが、ララが幼い頃に失踪・死亡したとされている。
- マンフレッド・パウエル (Manfred Powell):
- 俳優名: イアン・グレン
- 役 柄: 秘密結社「イルミナーティ」の幹部。ララと敵対し、全能の力を秘めた秘宝「光のトライアングル」を狙う。
- アレックス・ウェスト (Alex West):
- 俳優名: ダニエル・クレイグ
- 役 柄: ララの同業者でありライバルのトレジャーハンター。金のためなら手段を選ばない一面も持つ。
あらすじ
- 英国の貴族、ララ・クロフト(アンジェリーナ・ジョリー)は、類稀な才能を持つトレジャーハンター。亡き父リチャード・クロフト(ジョン・ボイド)卿の遺志を継ぎ、世界各地の遺跡で冒険を繰り広げていた。ある日、彼女は自宅であるクロフト邸で、5000年に一度の惑星直列と連動して時を刻む、奇妙な「時計」を発見する。
- その時計は、時間を支配できるという伝説の秘宝「光のトライアングル」の半分を隠した古代の寺院の場所を示す鍵だった。一方、世界を裏で操る秘密結社「イルミナーティ」も、この秘宝の力を狙っていた。イルミナーティの幹部パウエル(イアン・グレン)は、部隊を率いてクロフト邸を襲撃し、時計を強奪してしまう。
- ララは、父が残した手紙を手がかりに、イルミナーティの陰謀を阻止し、秘宝を悪の手から守るため、世界を股にかけた壮大な冒険に出発する。第一の目的地は、時計が示す「光のトライアングル」の半分が眠る、カンボジアのアンコール・ワット遺跡群だった。
見どころ3選
- 見どころ1:アンジェリーナ・ジョリーという完璧なキャスティング
- 本作が成功した最大の要因は、アンジェリーナ・ジョリーが主人公ララ・クロフトを演じたことにある。原作ゲームから飛び出してきたかのような完璧なビジュアル、自信に満ちた立ち振る舞い、そして常人離れしたアクション。彼女は、それまで男性が中心だった冒険アクション映画の世界で、セクシーさと強さを兼ね備えた「戦うヒロイン」像を確立し、世界的なスターダムにのし上がった。
- 見どころ2:世界を股にかける壮大なロケーション
- 「トゥームレイダー(墓荒らし)」の名の通り、本作は世界中の秘境や遺跡を舞台にしている。特に、カンボジアのアンコール・ワット(タ・プローム遺跡)で、映画史上初めて大規模な撮影が行われたことは有名だ。巨大な樹木が寺院に絡みつく幻想的な風景の中、ララが冒険を繰り広げるシーンは圧巻。他にもアイスランドの氷河など、CGでは再現できない本物の迫力が、冒険のスケールを大きくしている。
- 見どころ3:ゲームの世界観を再現したガジェットとアクション
- ララのトレードマークである二丁拳銃、バンジージャンプを応用した室内でのアクロバティックなアクション、ハイテク装備を駆使した謎解きなど、原作ゲームのファンを喜ばせる要素が満載だ。特に冒頭、自宅のトレーニングルームでララが巨大ロボットと「練習」するシークエンスは、彼女の戦闘能力とキャラクターを観客に印象付ける、遊び心に溢れた名シーンとなっている。
ベスト9 -『ソルト』(2010年 アメリカ)

作品概要
- タイトル: ソルト
- 英語タイトル: Salt
- 脚 本: カート・ウィマー
- 監 督: フィリップ・ノイス
- 主 演: アンジェリーナ・ジョリー、
- 共 演: リーヴ・シュレイバー、キウェテル・イジョフォー ほか
- 公 開: 2010年7月23日(米)、2010年7月31日(日)
- 興行収入: 約2億9350万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video、U-NEXT
主な登場人物
- イヴリン・ソルト (Evelyn Salt):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: CIA(アメリカ中央情報局)の優秀な職員。ロシアからの亡命者の告発により、ロシアの二重スパイ「KA-12」であるとの疑惑をかけられる。
- テッド・ウィンター (Ted Winter):
- 俳優名: リーヴ・シュレイバー
- 役 柄: ソルトの上司であり、CIAロシア部門の責任者。ソルトを信頼しているが、彼女の逃走により苦しい立場に立たされる。
- ピーボディ (Peabody):
- 俳優名: キウェテル・イジョフォー
- 役 柄: CIAの防諜部員。当初からソルトを厳しく追及し、彼女の逃走後は執拗に追跡する。
あらすじ
- CIAの優秀な分析官イヴリン・ソルト(アンジェリーナ・ジョリー)は、愛する夫マイケルとの平和な結婚記念日を祝おうとしていた。そんな彼女のもとに、オルロフと名乗るロシアからの亡命者が現れる。オルロフは尋問の中で、近い将来、ロシアの訓練を受けたスパイ「KA」がアメリカ大統領を暗殺し、アメリカを壊滅させる計画が実行されると告げる。
- さらにオルロフは、その暗殺を実行するスパイの名は「イヴリン・ソルト」であると衝撃の告白をする。同僚たちが騒然とする中、ソルトは二重スパイの容疑をかけられる。上司のウィンター(リーヴ・シュレイバー)は彼女を庇おうとするが、防諜部員のピーボディ(キウェテル・イジョフォー)はソルトを拘束しようと動く。ソルトは、夫マイケルの身の危険を感じ、CIA本部から決死の逃走を図る。
- ソルトの常人離れした逃走劇は、彼女への疑惑をさらに深めるることに。彼女は本当に、幼少期からアメリカに潜入していたロシアの恐るべきスパイなのか? それとも、巨大な陰謀に巻き込まれただけなのか? ソルトはCIAの執拗な追跡をかわしながら、自身の無実を証明し、夫を救い出し、そして暗殺計画の真相を突き止めるため、孤独な戦いを開始します。
見どころ3選
- 見どころ1:アンジーの身体能力が爆発する超絶アクション
- 本作最大の見どころは、アンジェリーナ・ジョリーがノースタント(大部分)で挑んだとされる、息をのむようなアクションシーンの連続。高速道路での車から車への飛び移り、高層ビルからの決死の脱出、そして素手での激しい格闘。彼女の鍛え上げられた肉体と抜群の身体能力が遺憾なく発揮され、「女性版ジェイソン・ボーン」とも評される、リアリティとケレン味溢れるアクションが全編に渡って炸裂する。
- 見どころ2:敵か味方か? 予測不能なスパイ・サスペンス
- ソルトは本当にロシアのスパイなのか、それとも無実なのか? 物語は最後の最後まで予測不能な展開を見せる。彼女の行動は、無実を証明するためにも、スパイの任務を遂行するためにも見える。追うCIAの面々も、彼女を信じようとする者、最初から疑う者と、それぞれの思惑が交錯。誰を信じ、何を疑うべきか。観客を巧みにミスリードする脚本と、フィリップ・ノイス監督の緊迫感溢れる演出が見事だ。
- 見どころ3:変装で魅せる「ソルト」の多面性
- スパイ容疑をかけられたソルトは、追手から逃れるために様々な変装を駆使。ブロンドのロングヘアというCIA職員の姿から一転、黒髪のボブ、さらには男性にまで変装し、全く異なる顔を見せる。単なる外見の変化だけでなく、その時々で変わる表情や立ち振る舞いも見どころだ。アンジェリーナ・ジョリーの持つミステリアスな魅力と、役者としての幅の広さが、ソルトというキャラクターの多面性を際立たせている。
なお、『ソルト』については、さらに詳しい紹介記事を書いてます。

ベスト8-『Mr. & Mrs. スミス』(2005年 アメリカ)

作品概要
- タイトル: Mr. & Mrs. スミス
- 映画タイトル: Mr. & Mrs. Smith
- 脚 本: サイモン・キンバーグ
- 監 督: ダグ・リーマン
- 主 演: ブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー、
- 共 演: ヴィンス・ヴォーン、アダム・ブロディ ほか
- 公 開: 2005年6月10日(米)、2005年6月18日(日)
- 興行収入: 約4億8730万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video(レンタル)、U-NEXT、Netflix
主な登場人物
- ジョン・スミス (John Smith):
- 俳優名: ブラッド・ピット
- 役 柄: 建築会社の経営者(表向き)。その正体は、効率を重視する組織に所属する凄腕の暗殺者。ジェーンには秘密にしている。
- ジェーン・スミス (Jane Smith):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: コンピューター・インフラ企業の管理職(表向き)。その正体は、技術と戦略に長けた別の組織に所属する凄腕の暗殺者。ジョンには秘密にしている。
- エディ (Eddie):
- 俳優名: ヴィンス・ヴォーン
- 役 柄: ジョンの同僚であり友人(?)の暗殺者。ジョンに情報や仕事を提供するが、どこか掴みどころがない。
あらすじ
- ジョン(ブラッド・ピット)とジェーン(アンジェリーナ・ジョリー)のスミス夫妻は、郊外の高級住宅街で暮らす一見完璧な夫婦。しかし、結婚して5〜6年が経過した今、二人の関係は倦怠期に陥っており、夫婦カウンセリングに通う日々を送っていた。彼らはお互いに、平凡な職業(ジョンは建築家、ジェーンはシステム管理者)に就いていると信じ込んでいた。
- しかし、二人には重大な秘密があった。ジョンもジェーンも、それぞれがライバル組織に所属する超一流の「暗殺者」だったのだ。お互いの正体を知らないまま、二人は完璧に「平凡な夫婦」を演じ続けていた。ある日、二人は別々の組織から、同じターゲットの暗殺任務を命じられる。
- 現場で鉢合わせした二人は、互いの妨害により任務に失敗。その結果、相手が同業者であることに気づき始める。そしてついに、お互いの正体がバレてしまう。ライバル組織の暗殺者同士である二人に、それぞれの組織から下された指令は「48時間以内にもう一人のスミスを暗殺せよ」という非情なものだった。
見どころ3選
- 見どころ1:美男美女のスリリングな夫婦喧嘩(=殺し合い)
- 本作の醍醐味は、何と言ってもブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーという当代きってのスター二人が、互いの正体を知った後に繰り広げる壮絶な「夫婦喧嘩」だ。それは言葉の応酬ではなく、文字通りの銃撃戦であり、格闘戦である。愛し合っていたはずの二人が、互いの全てを知り尽くした上で本気で殺し合う。スタイリッシュなアクションと、皮肉の効いた会話劇が絶妙に融合している。
- 見どころ2:倦怠期夫婦のリアルと非日常アクションの融合
- 物語の導入は、セックスレスで会話もない「倦怠期の夫婦」という、非常にリアルな問題を描いている。カウンセリングでのちぐはぐな会話は、多くの夫婦が共感できる(かもしれない)部分だ。しかし、その正体が暗殺者だったという非日常的な設定が加わることで、物語は一気に加速する。互いに秘密を抱えていた二人が本音をぶつけ合う(物理的に)ことで、逆に関係が再燃していく様は、最高にクールなラブコメディとも言える。
- 見どころ3:ダグ・リーマン監督によるスタイリッシュな映像
- 『ボーン・アイデンティティー』で新たなアクション映画のスタイルを確立したダグ・リーマン監督の手腕が光る。二人の生活空間である洗練された自宅が、一転して壮絶な戦場と化すシーンは本作のハイライトだ。キッチンでの格闘、リビングでの銃撃戦など、日常空間で繰り広げられる非日常的なアクションを、スピーディーかつスタイリッシュなカメラワークで捉えている。全編を彩るクールな音楽も、作品のおしゃれな雰囲気を高めている。
ベスト7 -『ボーン・コレクター』(1999年 アメリカ)

作品概要
- タイトル: ボーン・コレクター
- 英語タイトル: The Bone Collector
- 原 作: ジェフリー・ディーヴァー『ボーン・コレクター』
- 脚 本: ジェレミー・アイアコーン
- 監 督: フィリップ・ノイス
- 主 演: デンゼル・ワシントン、アンジェリーナ・ジョリー
- 共 演: クイーン・ラティファ、マイケル・ルーカー ほか
- 公 開: 1999年11月5日(米)、2000年3月11日(日)
- 興行収入: 約1億5150万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video(レンタル)、U-NEXT
主な登場人物
- リンカーン・ライム (Lincoln Rhyme):
- 俳優名: デンゼル・ワシントン
- 役 柄: ニューヨーク市警きっての科学捜査官だったが、捜査中の事故で頸椎を損傷。首から下がほぼ麻痺状態となり、ベッド上での生活を余儀なくされている。
- アメリア・ドナヒー (Amelia Donaghy):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: ニューヨーク市警のパトロール警官。元々は少年課への異動を希望していたが、偶然にも猟奇殺人事件の第一発見者となり、ライムの目と手足となって現場捜査を担当することになる。
- セルマ (Thelma):
- 俳優名: クイーン・ラティファ
- 役 柄: ライムの専属看護師。彼の身の回りの世話だけでなく、毒舌を交えながらも彼を精神的に支える良き理解者。
あらすじ
- ニューヨーク市警のパトロール警官アメリア・ドナヒー(アンジェリーナ・ジョリー)は、ある通報を受け、線路脇で凄惨な遺体を発見。その現場には、犯人が意図的に残したと思われる奇妙な証拠品(骨片や古い新聞の切り抜きなど)が残されていた。この特異な事件の捜査のため、かつて伝説的な科学捜査官だったリンカーン・ライム(デンゼル・ワシントン)に協力が要請される。
- ライムは4年前の捜査中の事故で、首から上と左手の薬指しか動かせない重度の四肢麻痺となり、警察を引退していた。生きる気力さえ失いかけていたライムだが、アメリアが発見した現場の状況と証拠品に異常な関心を示す。彼は、アメリアを自身の「目・耳・手足」として現場に向かわせ、無線で指示を送りながら捜査を進めることを決意。
- アメリアは、ライムの的確だが時に非情な指示に戸惑いながらも、その鋭い洞察力と科学捜査の知識を目の当たりにし、徐々に彼を信頼し始める。一方、犯人は「ボーン・コレクター(骨収集家)」と名乗り、ニューヨークの古い犯罪小説を模倣したかのような犯行を次々と繰り返す。ライムとアメリアは、犯人が残すわずかな手がかりを頼りに、次の犯行を防ごうと時間との戦いに挑む。
見どころ3選
- 見どころ1:デンゼル・ワシントン vs. アンジェリーナ・ジョリーの演技合戦
- 本作の核は、二人の主人公の緊迫した関係性だ。デンゼル・ワシントンは、首から上がほぼ動かないという極限の状況下で、声のトーン、目の動き、わずかな表情の変化だけで、ライムの知性、苛立ち、苦悩、そして捜査への情熱を見事に表現する。対するアンジェリーナ・ジョリーは、まだ若手ながらも、トラウマを抱え、危険な現場に踏み込む恐怖と、捜査官としての使命感に揺れ動くアメリアの繊細な心理を体当たりで演じきった。
- 見どころ2:動けない天才 vs. 動く新人という異色のバディ
- 主人公の天才捜査官がベッドから一歩も動けない、という設定が本作の最大のサスペンスを生み出している。ライムはアメリアを通じてしか現場を知ることができず、アメリアはライムの指示がなければ証拠の意味を理解できない。この「二人で一人」の捜査体制は、もどかしくもスリリングだ。アメリアが現場で危険に晒されても、ライムはモニター越しに見守ることしかできない。このジレンマが、終始緊張感を持続させる。
- 見どころ3:90年代サイコサスペンスの王道を行く緻密なプロット
- 『セブン』や『羊たちの沈黙』といった90年代を代表するサイコサスペンスの系譜に連なる作品だ。猟奇的な犯行現場、犯人が残す不可解なメッセージ、そして過去の事件との関連性。ジェフリー・ディーヴァーの緻密な原作を基に、観客の知的好奇心を刺激する謎解きと、タイムリミットサスペンスの要素が巧みに組み合わされている。雨のニューヨークを舞台にしたダークな映像美も、作品の不気味な雰囲気を高めている。
ベスト6-『ウォンテッド』(2008年 アメリカ)

作品概要
- タイトル: ウォンテッド
- 英語タイトル: Wanted
- 原 作: マーク・ミラー、J・G・ジョーンズ『ウォンテッド』(コミック)
- 脚 本: マイケル・ブラント、デレク・ハース、クリス・モーガン
- 監 督: ティムール・ベクマンベトフ
- 主 演: ジェームズ・マカヴォイ、アンジェリーナ・ジョリー
- 共 演: モーガン・フリーマン、テレンス・スタンプ ほか
- 公 開: 2008年6月27日(米)、2008年9月20日(日)
- 興行収入: 約3億4140万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video、U-NEXT、Netflix
主な登場人物
- ウェスリー・ギブソン (Wesley Gibson):
- 俳優名: ジェームズ・マカヴォイ
- 役 柄: 会計事務所で働く、平凡で気弱な青年。上司にいびられ、恋人には親友と浮気されるという鬱屈した日々を送っていた。
- フォックス (Fox):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: 暗殺組織「フラタニティ」のメンバー。ウェスリーを組織にスカウトし、彼を一流の暗殺者に育てるための指導役となる。クールでミステリアスな凄腕の暗殺者。
- スローン (Sloan):
- 俳優名: モーガン・フリーマン
- 役 柄: 暗殺組織「フラタニティ」のリーダー。「運命の織機」が示す暗殺ターゲットを組織のメンバーに伝える役割を担う。
あらすじ
- ウェスリー・ギブソン(ジェームズ・マカヴォイ)は、シカゴの会計事務所で働く冴えない青年。横暴な上司に日々罵倒され、恋人は親友と浮気中。おまけに彼はパニック障害の薬を手放せない。そんな最低な日常を送っていたある日、彼はスーパーマーケットで謎の美女フォックス(アンジェリーナ・ジョリー)に出会う。
- フォックスはウェスリーに、彼が幼い頃に別れた父親が、実は伝説的な暗殺者であったこと、そしてその父親が「クロス」という裏切り者に殺されたことを告げる。直後、二人はそのクロスに襲撃される。フォックスはウェスリーを助け、千年以上続く暗殺組織「フラタニティ」のアジトへと彼を導く。
- 織のリーダーであスローン(モーガン・フリーマン)は、ウェスリーに父親の血を受け継ぐ「暗殺者としての才能」が眠っていると語る。彼は、父親の復讐を果たすため、そして鬱屈した自分自身を変えるため、組織に入ることを決意する。フォックスや他のメンバーによる、常軌を逸した過酷な訓練が始まった。ウェスリーは、超人的な身体能力と射撃技術を覚醒させていく。
見どころ3選
- 見どころ1:「弾丸が曲がる」VFXアクションの革命
- 本作を象徴するのが「バレットカーブ(弾丸曲げ)」と呼ばれる、銃弾の軌道を物理法則無視で曲げるガンアクションだ。ロシア出身のティムール・ベクマンベトフ監督による、独特の映像センスが爆発。スローモーションを多用し、弾丸が弧を描きながらターゲットを貫く様は、まさに映像革命。アンジェリーナ・ジョリー演じるフォックスが、車をドリフトさせながら放つ曲芸的な射撃シーンは、映画史に残る名場面の一つだ。
- 見どころ2:冴えない青年の覚醒という王道のカタルシス
- 『ファイト・クラブ』や『マトリックス』にも通じる、「平凡な日常を送る主人公が、謎の導き手によって覚醒し、非日常の世界に飛び込む」という物語は、いつの時代も観客の心を掴む。ジェームズ・マカヴォイが演じる、前半の情けないウェスリーと、訓練を経て冷酷な暗殺者へと変貌していく後半のギャップが見事だ。観客はウェスリーと共に、アドレナリン全開の覚醒プロセスを体験することになる。
- 見どころ3:アンジェリーナ・ジョリーのクールビューティーな魅力
- 本作のアンジェリーナ・ジョリーは、彼女のキャリアの中でも特に「クール」な魅力が際立っている。ミステリアスな暗殺者フォックスとして、感情をほとんど表に出さず、淡々と任務をこなす姿はまさに「美しき凶器」。ウェスリーを導くメンターでありながら、どこか危険な香りを漂わせる。彼女が運転する赤いダッジ・バイパーや、全身に刻まれたタトゥーも、そのキャラクター造形に深みを与えている。
ベスト5 -『マイティ・ハート/愛と絆』(2007年 アメリカ)

作品概要
- タイトル: マイティ・ハート/愛と絆
- 英語タイトル: A Mighty Heart
- 原 作: マリアンヌ・パール『マイティ・ハート―ダニエル・パール殺害事件の真実』
- 脚 本: ジョン・オーロフ
- 監 督: マイケル・ウィンターボトム
- 主 演: アンジェリーナ・ジョリー
- 共 演: ダン・ファターマン、イルファン・カーン ほか
- 公 開: 2007年6月22日(米)、2008年11月22日(日)
- 興行収入: 約1890万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video(レンタル)
主な登場人物
- マリアンヌ・パール (Mariane Pearl):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: フランス人のジャーナリスト。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者である夫ダニエル・パールとパキスタンに滞在中、夫が誘拐されるという悲劇に見舞われる。
- ダニエル・パール (Daniel Pearl):
- 俳優名: ダン・ファターマン
- 役 柄: マリアンヌの夫で、ウォール・ストリート・ジャーナルの南アジア支局長。イスラム過激派の取材中に誘拐される。
- フィロズ・カプテン (Captain Feroz):
- 俳優名: イルファン・カーン
- 役 柄: パキスタンの防諜機関(ISI)の捜査官。ダニエル誘拐事件の捜査を指揮し、マリアンヌらと協力して真相を追う。
あらすじ
- 2002年1月、パキスタン・カラチ。ウォール・ストリート・ジャーナルの記者ダニエル・パール(ダン・ファターマン)と、自身もジャーナリストであり妊娠中の妻マリアンヌ(アンジェリーナ・ジョリー)は、アルカイダと靴爆弾テロ犯リチャード・リードの関係について取材を進めていた。二人は間もなくアジアでの任務を終え、新しい生活を始める予定だった。
- ダニエルはある日、有力な情報源とされるイスラム指導者への取材のため、単身でレストランに向かったまま消息を絶つ。約束の時間を過ぎても帰宅しない夫を案じたマリアンヌは、同僚やパキスタン当局、アメリカ領事館に連絡。すぐに大規模な捜索が開始される。
- やがて、「ダニエル・パールを誘拐した」と主張する過激派組織から、犯行声明とダニエルの写真が添付されたメールが届く。彼らはアメリカ政府に対し、グアンタナモ収容所にいる捕虜の解放などを要求。マリアンヌは、パキスタン当局の捜査官・フィロズ・カプテン(イルファン・カーン)やFBIと協力し、夫の無事を信じて、必死の捜索と情報分析を続ける。
見どころ3選
- 見どころ1:アンジェリーナ・ジョリーの抑えた熱演
- アンジェリーナ・ジョリーは、本作で実在の人物マリアンヌ・パールを演じるにあたり、外見(アフロヘアや肌の色)を似せるだけでなく、彼女の内面を深く掘り下げた。夫の安否がわからない極限の状況下で、取り乱すことなく気丈に振る舞い、冷静に捜査の進捗を見守り、時には自ら情報を整理する。怒り、悲しみ、恐怖、そして希望。複雑な感情を内に秘め、ジャーナリストとしての尊厳と妻としての愛を貫く姿を、抑えた演技で見事に体現している。
- 見どころ2:ドキュメンタリータッチの緊迫感
- 『イン・ディス・ワールド』などで知られるマイケル・ウィンターボトム監督は、手持ちカメラを多用したドキュメンタリータッチの映像で、事件の生々しい緊迫感をスクリーンに映し出した。カラチの雑然とした街並み、捜査本部となった家の息詰まるような空気、錯綜する情報。観客はまるでマリアンヌと共にその場に立ち会い、事件の行方を固唾を飲んで見守っているかのような、強烈な臨場感を味わうことになる。
- 見どころ3:ジャーナリズムとテロリズムの対峙
- 本作は単なる誘拐サスペンスではなく、9.11以降の混沌とした世界における「ジャーナリズムの意義」を問う社会派ドラマでもある。なぜダニエルは危険を冒してまで取材を続けたのか。そして、残されたマリアンヌが絶望の淵で見出した希望とは何だったのか。故イルファン・カーンが演じるパキスタン人捜査官の冷静沈着なプロフェッショナリズムも印象的で、異なる文化や立場を超えて「真実」を追求しようとする人々の姿が胸を打つ。
ベスト4『マレフィセント』(2014年 アメリカ)

作品概要
- タイトル: マレフィセント
- 英語タイトル: Maleficent
- 脚 本: リンダ・ウールヴァートン、ポール・ディニ
- 監 督: ロバート・ストロンバーグ
- 主 演: アンジェリーナ・ジョリー
- 共 演: エル・ファニング、シャールト・コプリー ほか
- 公 開: 2014年5月30日(米)、2014年7月5日(日)
- 興行収入: 約7億5850万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video(レンタル)
主な登場人物
- マレフィセント (Maleficent):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: ムーア国の強力な妖精。かつて愛した人間に裏切られ、翼を奪われたことで冷酷な魔女へと変貌する。オーロラ姫に「真実の愛のキス」では解けない呪いをかける。
- オーロラ姫 (Princess Aurora):
- 俳優名: エル・ファニング
- 役 柄: 人間界のプリンセス。マレフィセントによって呪いをかけられ、森の中で3人の妖精によって育てられる。純粋で心優しい少女。
- ステファン王 (King Stefan):
- 俳優名: シャールト・コプリー
- 役 柄: オーロラ姫の父親。かつてはマレフィセントと心を通わせた人間の少年だったが、野心のために彼女を裏切り、王位を手に入れた。
あらすじ
- かつて、人間界と、妖精たちが暮らす「ムーア国」は隣り合っていた。ムーア国には、強力な翼を持つ美しい妖精マレフィセント(アンジェリーナ・ジョリー)がいました。ある日、彼女は人間界から迷い込んだ少年ステファン(シャールト・コプリー)と出会い、恋に落ちる。しかし、ステファンの野心は、二人の間に溝を作っていく。
- 時は流れ、人間界の王がムーア国を侵略しようとする。マレフィセントはムーア国の守護者として戦い、王を退ける。王は「マレフィセントを倒した者に王位を譲る」と宣言。野心に燃えるステファンは、マレフィセントを騙し、彼女の力の象徴であった翼を奪い取って王に差し出す。
- 愛する者に裏切られ、翼を失ったマレフィセントの心は、深い悲しみと憎悪に染まる。やがて、王となったステファンに娘・オーロラ姫(エル・ファニング)が誕生。その祝宴に、冷酷な魔女と化したマレフィセントが現れ、オーロラ姫に「16歳の誕生日に糸車の針で指を刺して永遠の眠りにつく。呪いを解けるのは真実の愛のキスだけ」という、決して解けないはずの呪いをかける。
見どころ3選
- 見どころ1:アンジェリーナ・ジョリーの完璧な「マレフィセント」像
- アンジェリーナ・ジョリーは、ディズニー・ヴィラン(悪役)の中でも特に人気の高いマレフィセントを演じるにあたり、そのビジュアルを完璧に再現した。高く突き出た頬骨(特殊メイクによるもの)、血のように赤い唇、そして漆黒の角。その姿は、まさにアニメから飛び出してきたかのよう。しかし彼女の功績はそれだけでなく、裏切られた悲しみ、オーロラへの複雑な感情、そして時折見せる皮肉なユーモアまで、マレフィセントの人間(妖精)的な側面を深く掘り下げたことにある。
- 見どころ2:『眠れる森の美女』の悪役側からの再構築
- 本作は、誰もが知る『眠れる森の美女』の物語を、「なぜマレフィセントはオーロラ姫に呪いをかけたのか?」という視点から大胆に再構築している。単なる悪役だったマレフィセントが、実は純粋な妖精であり、人間の裏切りによって心を閉ざしてしまったという背景を描く。そして、呪いをかけたはずのオーロラ姫の成長を影から見守るうちに、皮肉にも彼女自身の中に「母性」のような感情が芽生えていく過程が、本作の最大の魅力となっている。
- 見どころ3:「真実の愛」への新しい解釈
- ディズニー・プリンセスストーリーの定番であった「王子様のキス」という結末。本作は、その「真実の愛のキス」が何を意味するのかについて、現代的な新しい解釈を提示する。『アナと雪の女王』とも通じる、恋愛だけではない多様な愛の形を描いたことで、多くの観客の共感を呼んだ。オスカー受賞経験もあるロバート・ストロンバーグ監督(本作が初監督)による、ダークファンタジーの美しい映像世界も見逃せない。
ベスト3 -『ジーア/悲劇のスーパーモデル』(1998年 アメリカ)

作品概要
- タイトル: ジーア/悲劇のスーパーモデル
- 英語タイトル: Gia
- 原 作: スティーヴン・フリードの調査記事およびジーア・キャランジの日記
- 脚 本: ジェイ・マキナニー、マイケル・クリストファー
- 監 督: マイケル・クリストファー
- 主 演: アンジェリーナ・ジョリー、
- 共 演: フェイ・ダナウェイ、エリザベス・ミッチェル
- 放 送: 1998年1月31日(米・TV映画)
- 興行収入: (テレビ映画のため劇場興行収入なし)
- 配 信: U-NEXT
主な登場人物
- ジーア・キャランジ (Gia Carangi):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: 1970年代後半から80年代初頭にかけて活躍した実在のスーパーモデル。フィラデルフィアからニューヨークへ出て瞬く間にトップに上り詰めるが、ドラッグと愛の渇望の中で破滅的な人生を送る。
- ウィルヘルミナ・クーパー (Wilhelmina Cooper):
- 俳優名: フェイ・ダナウェイ
- 役 柄: ジーアを見出し、トップモデルへと育て上げた大手モデルエージェンシーの経営者。ジーアの才能を愛しつつも、彼女の奔放さに振り回される。
- リンダ (Linda):
- 俳優名: エリザベス・ミッチェル
- 役 柄: ジーアが撮影現場で出会ったメイクアップアーティスト。ジーアが唯一心を開き、激しく愛した同性の恋人。
あらすじ
- 1970年代後半、フィラデルフィア。パンクな格好でダイナーで働く17歳のジーア・キャランジ(アンジェリーナ・ジョリー)は、その野性的でアンニュイな魅力からスカウトされ、ニューヨークへと向かう。大手モデルエージェンシーの経営者ウィルヘルミナ・クーパー(フェイ・ダナウェイ)は、ジーアの型破りな個性とカメラの前での爆発的な表現力に惹かれ、彼女と契約する。
- ジーアは瞬く間にファッション界の寵児となり、ヴォーグ誌の表紙を飾るなど、スーパーモデルの頂点へと駆け上がる。彼女は自由奔放に振る舞い、撮影現場ではメイクアップアーティストのリンダ(エリザベス・ミッチェル)と出会い、激しい恋に落ちる。富と名声を欲しいままにするジーアだったが、その心は常に母親の愛に飢え、孤独感を抱えていた。
- 心の隙間を埋めるように、ジーアはドラッグ(ヘロイン)に溺れ始める。ドラッグは彼女のキャリアと私生活を徐々に蝕んでいく。撮影のドタキャン、奇行、そしてドラッグの注射痕を隠せないほどの身体。恋人のリンダも彼女のもとを去り、恩師であったウィルヘルミナも病に倒れる。ジーアは破滅への道を転がり落ちていく。
見どころ3選
- 見どころ1:アンジェリーナ・ジョリーのキャリアを決定づけた神がかり的な演技
- 本作がテレビ映画でありながら伝説的な作品となっている理由は、主演のアンジェリーナ・ジョリーの演技に尽きる。当時まだ20代前半だった彼女は、実在のモデル、ジーア・キャランジに完全になりきり、その短い生涯を凄まじい熱量で演じきった。天真爛漫な魅力、爆発的なエネルギー、愛への渇望、ドラッグに溺れる様、そして絶望。彼女の体当たりの演技は批評家から絶賛され、ゴールデングローブ賞(TV映画部門)を受賞。本作がなければ、翌年の『17歳のカルテ』でのオスカー受賞もなかったかもしれない。
- 見どころ2:70〜80年代ファッション界の光と影
- ジーアが活躍した70年代末から80年代初頭は、ディスコカルチャーが花開き、ファッション界が華やかさと退廃を極めた時代だ。本作では、当時のファッションシューティングの様子や、伝説的なクラブ「スタジオ54」の雰囲気などがリアルに再現されている。しかし、その華やかな世界の裏側で、いかにドラッグが蔓延し、多くの若者の才能を食いつぶしていったかという「影」の部分も容赦なく描いている。
- 見どころ3:愛と孤独を巡る、痛切な人間ドラマ
- ジーアはなぜ破滅しなければならなかったのか。本作は、彼女がスーパーモデルとして成功しながらも、幼少期に満たされなかった母親からの愛を生涯求め続け、その孤独を埋めるためにドラッグと刹那的な愛に依存していった過程を、彼女の日記や関係者の証言(という形式)を交えて描いていく。特に、エリザベス・ミッチェル演じる恋人リンダとの、激しくも切ないラブストーリーは、ジーアの純粋さと脆さを浮き彫りにしている。
ベスト2『17歳のカルテ』(1999年 アメリカ)

作品概要
- タイトル: 17歳のカルテ
- 英語タイトル: Girl, Interrupted
- 原 作: スザンナ・ケイセン『思春期病棟の少女たち』
- 脚 本: ジェームズ・マンゴールド、リサ・ルーム、アンナ・ハミルトン・フィーラン
- 監 督: ジェームズ・マンゴールド
- 主 演: ウィノナ・ライダー、
- 共 演: アンジェリーナ・ジョリー、ブリタニー・マーフィ、ジャレッド・レト ほか
- 公 開: 1999年12月21日(米)、2000年5月13日(日)
- 興行収入: 約4830万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video(レンタル)、U-NEXT
主な登場人物
- スザンナ・ケイセン (Susanna Kaysen):
- 俳優名: ウィノナ・ライダー
- 役 柄: 主人公。17歳。高校卒業後、進路に悩み、アスピリンの過剰摂取で自殺未遂を図る。「境界性パーソナリティ障害」と診断され、精神科病院(クレイモア)に入院する。
- リサ・ロウ (Lisa Rowe):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: クレイモアに長期入院している少女。カリスマ的な魅力を持つ反面、非常に反抗的で自己破壊的な「ソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)」。入院患者たちのリーダー的存在。
- デイジー・ランドン (Daisy Randone):
- 俳優名: ブリタニー・マーフィ
- 役 柄: 摂食障害(過食症)と強迫性障害を抱える少女。父親からの性的虐待という暗い過去を持つ。
あらすじ
- 1967年、マサチューセッツ州。17歳のスザンナ・ケイセン(ウィノナ・ライダー)は、高校を卒業したものの、大学進学や将来に漠然とした不安を抱えていた。ある日、彼女は大量のアスピリンとウォッカを摂取し、自殺未遂とみなされる。精神科医の診断により、彼女は「境界性パーソナリティ障害」と診断され、精神科病院「クレイモア」に入院することになる。
- 入院生活に戸惑うスザンナだったが、そこで様々な問題を抱える同世代の少女たちと出会う。嘘つきのジョージーナ、自傷行為を繰り返すポリー、拒食症のデイジー(ブリタニー・マーフィ)。中でもスザンナは、病棟のリーダー格であるリサ・ロウ(アンジェリーナ・ジョリー)の、危険だが抗いがたいカリスマ性に強く惹かれていく。
- リサは病院の規則を破り、看護師たちを挑発し、自由奔放に振る舞う。スザンナはリサと行動を共にするうちに、病院の体制に反発し、現実逃避的な行動(夜中の脱走など)を繰り返すようになる。しかし、リサの過激な言動は、他の患者たち、特にデイジーを精神的に追い詰めていき、スザンナは次第にリサの影響力に疑問を抱き始める。
見どころ3選
- 見どころ1:アンジェリーナ・ジョリー、圧巻のアカデミー賞受賞演技
- 本作でアンジェリーナ・ジョリーが演じたリサ・ロウは、映画史に残る強烈なキャラクターだ。主人公スザンナ(ウィノナ・ライダー)を食うほどの存在感を放ち、その予測不能な言動で観客を魅了し、同時に恐怖させる。他人の弱さを見抜き、巧みに操る冷酷さと、その裏にある強烈な孤独と痛み。この難役を、彼女は全身全霊で演じきり、アカデミー助演女優賞をはじめ、ゴールデングローブ賞、全米映画俳優組合賞など、数々の賞を総なめにした。
- 見どころ2:ウィノナ・ライダーとの繊細な化学反応
- 本作は、アンジェリーナ・ジョリーの怪演だけでなく、主人公を演じたウィノナ・ライダーの繊細な演技があってこそ成立している。時代の寵児であったウィノナが演じるスザンナは、どこにでもいる「普通」の少女であり、だからこそ「狂気」と「正気」の境界線で揺れ動く。リサという強烈な「狂気」の引力に惹かれ、翻弄され、やがて自己を見つめ直していくスザンナの姿は、観客の共感を呼ぶ。二人の女優の対照的な魅力が、見事な化学反応を起こしている。
- 見どころ3:60年代のカウンターカルチャーと青春の痛み
- 物語の舞台は1960年代後半。ベトナム戦争、公民権運動、ヒッピームーブメントなど、アメリカ社会が大きく揺れ動いた時代だ。精神科病院という閉鎖的な空間は、当時の抑圧的な社会の縮図でもある。そんな時代に「普通」のレールから外れてしまった少女たちの焦燥感、反発、そして連帯を描いた本作は、痛みを伴う青春映画として、公開から20年以上経った今もなお、多くの若者(特に女性)からカルト的な支持を得ている。
ベスト1『チェンジリング』(2008年 アメリカ)

作品概要
- タイトル: チェンジリング
- 英語タイトル: Changeling
- 原 作: なし
- 1920年代にロサンゼルスで起きた「ゴードン・ノースコット事件」に基づく実話
- 脚 本: J・マイケル・ストラジンスキー
- 監 督: クリント・イーストウッド
- 主 演: アンジェリーナ・ジョリー
- 共 演: ジョン・マルコヴィッチ、ジェフリー・ドノヴァン ほか
- 公 開: 2008年10月24日(米)、2009年2月20日(日)
- 興行収入: 約1億1300万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video(レンタル)、U-NEXT
主な登場人物
- クリスティン・コリンズ (Christine Collins):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: 1928年のロサンゼルスで暮らすシングルマザー。電話会社で管理職として働きながら、9歳の息子ウォルターを女手ひとつで育てている。
- グスタヴ・ブリーグレブ牧師 (Rev. Gustav Briegleb):
- 俳優名: ジョン・マルコヴィッチ
- 役 柄: ロサンゼルス市警(LAPD)の腐敗を厳しく追及している長老派教会の牧師。クリスティンの訴えに耳を傾け、彼女を支援する。
- J・J・ジョーンズ警部 (Captain J. J. Jones):
- 俳優名: ジェフリー・ドノヴァン
- 役 柄: LAPD少年課の責任者。クリスティンの息子を発見したと発表するが、彼女の「息子ではない」という訴えを精神的なものと決めつけ、高圧的に押さえ込もうとする。
あらすじ
- 1928年、ロサンゼルス。電話会社で働くシングルマザーのクリスティン・コリンズ(アンジェリーナ・ジョリー)は、9歳の息子ウォルターと平穏に暮らしていた。ある日、彼女が急な仕事で帰宅が遅れると、家で待っているはずのウォルターが忽然と姿を消してしまう。警察による懸命な捜索もむなしく、数ヶ月が経過する。
- 事件発生から5ヶ月後、LAPDのジョーンズ警部(ジェフリー・ドノヴァン)から「ウォルターを発見した」との朗報が届く。クリスティンは駅に駆けつけ、大々的な報道陣の前で息子との再会を果たす。しかし、彼女の前に現れた少年は、ウォルターよりも背が低く、全くの別人だった。
- クリスティンはジョーンズ警部に「この子は息子ではない」と訴えるが、警部は世間体と警察の面子を守るため、「息子の失踪というショックで母親が混乱しているだけだ」と彼女の訴えを退け、無理やり少年を引き取らせる。しかしクリスティンは、少年の身体的特徴(身長や歯の治療痕)の違いを証拠として突きつけ、息子の捜索続行を要求する。
見どころ3選
- 見どころ1:アンジェリーナ・ジョリーのキャリア最高傑作と評される演技
- 本作でアンジェリーナ・ジョリーは、息子を失い、巨大な権力(警察)に立ち向かう母親の絶望、怒り、そして不屈の精神を、鬼気迫る演技で体現した。特に、警察によって精神病院に強制入院させられてもなお、息子の生存を信じ続ける姿は圧巻だ。華やかなアクションスターのイメージを封印し、当時のレトロな衣装に身を包み、母親としての愛の強さだけを武器に戦う女性を演じきった。この演技で彼女はアカデミー主演女優賞にノミネートされた。
- 見どころ2:巨匠クリント・イーストウッドの重厚な演出
- クリント・イーストウッド監督は、1920年代のロサンゼルスで実際に起きた衝撃的な事件を、重厚かつ抑制の効いた演出で描き出した。当時の街並みや風俗を完璧に再現し、腐敗した警察権力がいかに一個人の女性を追い詰めていったかを冷徹な視線で見つめる。同時に進行する別の連続少年誘拐殺人事件の捜査が、クリスティンの戦いと交錯していくサスペンスフルな脚本も秀逸だ。
- 見どころ3:絶望の中の「希望」を問う、実話の衝撃
- 本作が観客に与える衝撃は、これが実話に基づいているという事実だ。「チェンジリング(取り替え子)」というタイトルの通り、警察が面子のためだけに別の子を押し付け、真実を訴える母親を精神異常者扱いしたという事実に戦慄する。しかし、そんな絶望的な状況下でも、クリスティンは息子の生存を信じ、真実の追究を諦めない。彼女を支援するブリーグレブ牧師の存在も、唯一の救いとなる。最後まで希望を捨てない母親の姿が、深い感動を呼ぶ。
アンジェリーナ・ジョリー監督作品、お薦め3選
アンジェリーナ・ジョリー監督作品のお薦めを3選。
監督作品1 -『最愛の大地』(2011年 アメリカ)

アンジェリーナ・ジョリー初監督作品。脚本・制作兼務。
2011年12月アメリカ公開、2013年3月日本公開。
アンジェリーナ・ジョリーはエキストラとしてカメオ出演、出演者としてのクレジットなし。
作品概要
- タイトル: 最愛の大地
- 英語タイトル: In the Land of Blood and Honey
- 脚 本: アンジェリーナ・ジョリー
- 監 督: アンジェリーナ・ジョリー
- 主 演: ザナ・マリアノヴィッチ
- 共 演: ゴラン・コスティッチ、ラデ・シェルベッジア ほか
- 公 開: 2011年12月23日(米)、2013年8月10日(日)
- 興行収入: 約250万ドル(全世界)
- 配 信: —
主な登場人物
- アイラ (Ajla):
- 俳優名: ザナ・マリアノヴィッチ
- 役 柄: ボシュニャック人(イスラム教徒)の女性画家。ダニエルと恋に落ちるが、紛争によって運命が引き裂かれる。
- ダニエル (Danijel):
- 俳優名: ゴラン・コスティッチ
- 役 柄: セルビア人男性。警察官であり、セルビア人民族主義者の父を持つ。アイラと愛し合っていたが、紛争で敵同士となる。
- ネボイシャ・ヴコイェヴィッチ (Nebojša Vukojević):
- 俳優名: ラデ・シェルベッジア
- 役 柄: ダニエルの父親。セルビア人勢力の高位の将軍であり、強硬な民族主義者。
- (カメオ出演):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー
- 役 柄: 冒頭のパーティシーンに、クレジットなしのエキストラとしてカメオ出演しているとされています。
あらすじ
- 1992年、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ。画家でボシュニャック人のアイラ(ザナ・マリアノヴィッチ)と警察官でセルビア人のダニエル(ゴラン・コスティッチ)は、ナイトクラブで出会い、恋に落ちる。民族の違いを超えて惹かれ合う二人だったが、その直後、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が勃発。サラエボはセルビア人勢力によって包囲され、街は戦場と化す。
- アイラは、他のボシュニャック人女性たちと共にセルビア人勢力の捕虜収容所に送られる。そこで彼女が再会したのは、収容所を管理する部隊の指揮官となった、かつての恋人ダニエルだった。ダニエルは父(セルビア人勢力の将軍)の影響下にありながらも、アイラへの愛を捨てきれず、彼女を自身の庇護下に置こうとする。
- 二人の関係は、「愛」と「支配」、「保護」と「虐待」の境界線上で危うく揺れ動く。ダニエルはアイラを特別扱いするが、それは彼女の尊厳を奪うことにも繋がっていく。一方、アイラは生き延びるため、そして収容所の仲間を助けるため、ダニエルとの関係を利用しようと試みる。戦争という極限状態が、二人の愛を歪めていく。
見どころ3選
- 見どころ1:アンジェリーナ・ジョリー、衝撃の監督デビュー作
- 本作はアンジェリーナ・ジョリーの長編監督デビュー作(※)であり、彼女が長年取り組んできた人道支援活動家としての視点が色濃く反映されている。ボスニア紛争という非常に重く、デリケートなテーマに正面から挑み、恋愛ドラマの形をとりながら、戦争がもたらす無差別な暴力と、特に女性が受ける性暴力の現実を容赦なく描き出した。彼女の強い問題意識と覚悟が感じられる。(※厳密にはドキュメンタリー監督作あり)
- 見どころ2:敵対する民族同士の「ロミオとジュリエット」
- 物語の核となるのは、ボシュニャック人のアイラとセルビア人のダニエルという、紛争によって敵同士となってしまった二人の愛の行方だ。かつて愛し合った二人が、戦争という名の巨大な暴力によって引き裂かれ、加害者と被害者という歪んだ関係性の中でしか再会できなかった悲劇を描く。愛が憎しみに変わるのか、それとも憎しみの中でも愛は残るのかを問いかける。
- 見どころ3:リアリズムを追求した現地キャストと緊迫感
- アンジェリーナ・ジョリーはリアリズムを追求するため、主要キャストのほとんどを旧ユーゴスラビア諸国出身の俳優で固めた。彼らの多くは、実際に紛争を経験している。そのため、作品全体に生々しい緊迫感とリアリティが漲っている。また、全編が現地語(ボスニア語/セルビア語)で撮影されており(英語版も別途撮影)、彼女の誠実な製作姿勢がうかがえる。
監督作品2 -『アンブロークン 不屈の男』(2014年 アメリカ)

アンジェリーナ・ジョリー監督2作目。制作兼務。
2014年12月アメリカ公開、2016年2月日本公開。
アンジェリーナ・ジョリーの出演は無い。
作品概要
- タイトル: アンブロークン 不屈の男
- 英語タイトル: Unbroken
- 原 作: ローラ・ヒレンブランド『アンブロークン:第二次世界大戦、あるオリンピック選手の物語』
- 脚 本:
- ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン、リチャード・ラグラヴェネーズ、ウィリアム・ニコルソン
- 監 督: アンジェリーナ・ジョリー
- 主 演: ジャック・オコンネル、
- 共 演: ドーナル・グリーソン、MIYAVI(石原貴雅)ほか
- 公 開: 2014年12月25日(米)、2016年2月6日(日)
- 興行収入: 約1億6340万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video(レンタル)、Netflix
主な登場人物
- ルイス “ルイ”・ザンペリーニ (Louis “Louie” Zamperini):
- 俳優名: ジャック・オコンネル
- 役 柄: 主人公。イタリア系移民の子として非行に走るが、兄の勧めで陸上を始め、ベルリン・オリンピックの長距離走者となる。第二次世界大戦で爆撃機の乗員となる。
- ラッセル・アレン・”フィル”・フィリップス (Russell Allen “Phil” Phillips):
- 俳優名: ドーナル・グリーソン
- 役 柄: ルイが搭乗する爆撃機の操縦士。ルイと共に太平洋を47日間漂流する。
- 渡邊 睦裕(わたなべ むつひろ):
- 俳優名: MIYAVI(石原貴雅)
- 役 柄: ルイが収容された日本の捕虜収容所の監視員(伍長)。ルイの不屈の精神に異常な敵意を燃やし、彼を執拗に虐待する。
あらすじ
- 少年時代、イタリア系移民であることから差別を受け、非行に走っていたルイス・ザンペリーニ(ジャック・オコンネル)。彼は兄の指導で陸上競技に目覚め、その才能を開花させる。やがて彼は、1936年のベルリン・オリンピックにアメリカ代表の長距離ランナーとして出場するまでになる。
- しかし、第二次世界大戦が勃発し、ルイは陸軍航空隊の爆撃手として太平洋戦線に送られる。1943年、彼が乗った爆撃機はエンジンントラブルで太平洋に墜落。ルイは、操縦士のフィル(ドーナル・グリーソン)らと共に、わずかな食料と水で広大な海を漂流することになる。
- サメの脅威や飢えと渇きに耐え、47日間という驚異的な漂流の末、彼らが救助されたのは、敵国である日本の海軍だった。ルイは捕虜となり、複数の捕虜収容所を転々とさせられる。その中でも、渡邊伍長というサディスティックな監視員がいる収容所では、彼の「オリンピック選手」という経歴が、渡邊の異常な執着と虐待の対象となってしまう。
見どころ3選
- 見どころ1:アンジェリーナ・ジョリーの監督としての手腕
- 本作はアンジェリーナ・ジョリーの監督長編2作目(※『最愛の大地』に次ぐ)であり、彼女のキャリアにおいて監督としての評価を決定づけた作品だ。空中での壮絶なドッグファイト、太平洋での過酷な漂流、そして捕虜収容所での精神的な攻防。これらスケールの大きな三幕構成の物語を、重厚かつヒューマンな視点で見事に描き切った。脚本にコーエン兄弟が参加している点も、作品のクオリティを高めている。
- 見どころ2:実在の人物ルイ・ザンペリーニの「不屈」の半生
- 本作が描くのは、ルイス・ザンペリーニという一人の男の、信じがたいほど壮絶な実話だ。オリンピック選手としての栄光、47日間の漂流、そして2年以上に及ぶ捕虜生活。いかなる極限状況においても、彼は決して「不屈(Unbroken)」の精神を失わなかった。なぜ彼は希望を捨てなかったのか。主演のジャック・オコンネルの、肉体を極限まで絞った鬼気迫る演技が、その問いに説得力を持たせている。
- 見どころ3:MIYAVIの怪演と「赦し」のテーマ
- 日本のミュージシャンであるMIYAVIが、ルイを執拗に虐待する渡邊伍長を演じ、俳優として強烈なデビューを果たした。彼の冷徹でサディスティックな演技は、ルイが直面する絶望の象徴として機能している。しかし、本作の真のテーマは「憎しみ」ではなく、戦後にルイ本人が成し遂げた「赦し(Forgiveness)」にある。過酷な運命を描きながらも、最終的に人間の尊厳と再生を描こうとする監督の強い意志が感じられる。
監督作品3 -『白い帽子の女』(2015年 アメリカ)

アンジェリーナ・ジョリー監督3作目。脚本・制作兼務。
2015年11月アメリカ公開、2016年9月日本公開。
アンジェリーナ・ジョリーは、当時夫だったブラッド・ピットとW主演。
なお、ブラッド・ピットは制作も兼務。
作品概要
- タイトル: 白い帽子の女
- 英語タイトル: By the Sea
- 脚 本: アンジェリーナ・ジョリー・ピット
- 監 督: アンジェリーナ・ジョリー・ピット
- 主 演: ブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー・ピット
- 共 演: メラニー・ロラン ほか
- 公 開: 2015年11月13日(米)、2016年10月8日(日)
- 興行収入: 約330万ドル(全世界)
- 配 信: Prime Video(レンタル)
主な登場人物
- ヴァネッサ (Vanessa):
- 俳優名: アンジェリーナ・ジョリー・ピット
- 役柄: 元ダンサー。深い心の傷を抱え、夫ローランドとの関係も冷え切っている。ホテルの部屋に閉じこもりがちになる。
- ローランド (Roland):
- 俳優名: ブラッド・ピット
- 役柄: ヴァネッサの夫で、アメリカ人の作家。スランプに陥っており、妻との関係を修復しようと南フランスを訪れるが、うまくいかない。
- レア (Léa):
- 俳優名: メラニー・ロラン
- 役柄: ローランドとヴァネッサが宿泊するホテルの隣室に、新婚旅行で滞在している若妻。
あらすじ
- 1970年代、南フランス。アメリカ人作家のローランドと、その妻で元ダンサーのヴァネッサは、海辺の小さな町にあるホテルを訪れる。二人は結婚して14年経つが、その関係は完全に冷え切っており、ほとんど会話もない。ローランドはスランプから抜け出せず、カフェで酒を飲む日々を送り、ヴァネッサは部屋に閉じこもっている。
- ある日、ヴァネッサは自分たちの部屋の壁に、隣の部屋を覗き見できる「穴」があることに気づく。隣室には、レアとフランソワという若く情熱的な新婚夫婦が滞在していた。ヴァネッサは穴を通じて二人の様子を覗き見ることに、倒錯した喜びを見出し始める。
- やがて、ヴァネッサは夫ローランドをもその「覗き見」に誘い込む。二人は、隣の若い夫婦の情熱的な姿を共有することで、奇妙な形で再び繋がりを持ち始める。しかし、若夫婦への羨望と嫉妬は、ヴァネッサとローランドが抱える過去の深い悲しみと向き合うきっかけとなっていく。
見どころ3選
- 見どころ1:アンジェリーナ・ジョリーの監督・脚本・主演
- 本作は、アンジェリーナ・ジョリーが自ら脚本を書き、監督と主演を務めた、非常にパーソナルな作品だ。彼女の監督作としては3作目にあたり、1970年代のヨーロッパ映画(アートハウス映画)のスタイルにオマージュを捧げている。会話劇と映像美で、夫婦の繊細な心理描写をじっくりと描き出すという、商業的な大作とは一線を画す彼女の作家性に触れることができる。
- 見どころ2:ブラッド・ピットとの最後の共演
- 『Mr. & Mrs. スミス』以来、10年ぶりとなった当時の夫ブラッド・ピットとの共演作であり、結果的にこれが二人(ジョリー=ピット名義)の最後の共演作となった。前作とは対照的に、本作で二人が演じるのは、愛が冷え切り、互いを傷つけ合う寸前の夫婦。二人の実生活での関係を知っていると、より一層痛切に感じられる。二人のトップスターが、虚飾を排して生々しい感情をぶつけ合う演技は必見だ。
- 見どころ3:南仏の光と影が織りなす映像美
- 南フランスのマルタ島(ゴゾ島)で撮影された、陽光溢れる海辺の風景が、二人の心の「影」と強烈なコントラストを生み出している。ホテルの部屋の内部は、ヴァネッサの心情を反映するかのように重く、クラシカルな雰囲気に包まれている。一方で、穴から差し込む光や、隣室の若夫婦の「生」の輝きが、二人の停滞した関係に波紋を投げかける。この光と影の使い分けが、本作の芸術性を高めている。
アンジェリーナ・ジョリーに関するFAQ
- Q1: アンジェリーナ・ジョリーの人道支援活動について教えてください。
- A1: 彼女は2001年から国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の活動に参加し、長年(2022年まで)特使を務めました。世界中の難民キャンプを訪問し、難民の権利擁護や支援活動に尽力しています。
- Q2: 監督としてどのような作品を撮っていますか?
- A2: 2011年の『最愛の大地』(ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争下の恋愛)で監督デビュー。その後、『不屈の男 アンブロークン』、『白い帽子の女』、『最初に父が殺された』など、戦争や人権問題をテーマにした社会派作品を多く手掛けています。
- Q3: 彼女の父親も有名な俳優ですか?
- A3: はい、父親は『真夜中のカーボーイ』や『帰郷』で知られる名優ジョン・ヴォイトです。『トゥームレイダー』(2001)では親子共演も果たしています。
- Q4: ブラッド・ピットとはいつ出会い、いつ離婚しましたか?
- A4: 『Mr. & Mrs. スミス』(2005年)での共演がきっかけで交際に発展しました。2014年に結婚しましたが、2016年に離婚を申請し、2019年に法的に独身となりました。
- Q5: 子供は何人いますか?
- A5: 養子3人(マドックス、パックス、ザハラ)と、実子3人(シャイロ、ノックス、ヴィヴィアン)の合計6人の子供がいます。
- Q6: なぜ「ジョリー=ピット」と名乗っていたのですか?
- A6: ブラッド・ピットとのパートナーシップと家族の絆を示すため、お互いの姓をハイフンでつなげた「ジョリー=ピット」を法的な姓として使用していた時期がありました。子供たちも同様の姓を持っています。
- Q7: 乳房切除の手術を受けたというのは本当ですか?
- A7: はい。2013年に、乳がんや卵巣がんのリスクを高める遺伝子変異(BRCA1)を持っていることが判明したため、予防的措置として両乳房の切除・再建手術を受けました。その後、2015年には卵巣と卵管の摘出手術も受けています。
- Q8: 『トゥームレイダー』のララ・クロフト役は彼女のキャリアで重要ですか?
- A8: 非常に重要です。この役で彼女は世界的なアクションスターとしての地位を確立し、ゲームキャラクターを演じた女優として最も成功した一人となりました。
- Q9: 声優として『カンフー・パンダ』以外にも出演していますか?
- A9: はい、ドリームワークス作品では『シャーク・テイル』(2004)のローラ役も演じています。
- Q10: 彼女のタトゥーにはどんな意味がありますか?
- A10: 彼女は多くのタトゥーを入れています。子供たちの出生地の座標、仏教の経典(サクヤン)、ラテン語の引用など、それぞれが彼女の人生の節目や信念、家族への愛を象徴していると言われています。
- Q11: マーベル映画にも出演していますか?
- A11: はい、2021年公開のマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品『エターナルズ』で、強力な戦士「セナ」を演じました。
まとめ
アンジェリーナ・ジョリーのキャリアは、単なる「美人女優」や「アクションスター」という枠には到底収まりきりません。
『17歳のカルテ』や『ジーア』で見せた生々しいまでの初期の輝き、『Mr. & Mrs. スミス』や『ウォンテッド』でのクールな魅力、そして『チェンジリング』や『マイティ・ハート』で見せた、母親としての強さや社会派女優としての一面。
近年では『マレフィセント』という新たなアイコンも手に入れました。
彼女の作品を時系列で追うことは、一人の女性が様々な経験を経て、女優として、人間として深みを増していく過程を目の当たりにするようなものです。
今回紹介した14作品は、その多彩なキャリアのほんの一部に過ぎませんが、彼女の魅力を知るための最良の入り口となるはずです。


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